

③弦楽四重奏曲第3番・第7番・第8番
ショスタコーヴィチにとって、弦楽四重奏曲は「交響曲よりも私的な告白の場」でした。
体制批判が命にかかわるような時代、彼は管弦楽では語れなかった内面の真実を、
四つの弦で静かに、時に激しく訴え続けたのです。
その精神を現代に受け継ぎ、深い共感と緻密なアンサンブルで再現したのがハーゲン弦楽四重奏団。
彼らの録音によるショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲は、
静けさの中に宿る叫びと、極限まで研ぎ澄まされた表現が際立つ名演です。
第3番(1946年)は、戦争をテーマに5つの楽章で構成され、
当時の社会情勢に配慮し「祖国の勝利」としての表現を装いながらも、
戦争の悲惨さと空虚さを滲ませています。
第7番(1960年)は、わずか12分ほどの短い作品ながら、
ショスタコーヴィチの亡き妻ニーナへの哀悼がこめられた、
静かな祈りのような作品です。
そして第8番(1960年)は、ショスタコーヴィチ自身が
「すべてのファシズムの犠牲者に捧ぐ」と書いた最も有名な四重奏曲。
自らの名前に由来する音型“DSCH”が全曲を貫き、
自己と時代の圧力との闘いを刻みつけたような傑作です。
このCDは、ショスタコーヴィチが最も率直に「語った」三つの四重奏曲を、
現代最高峰のアンサンブルが深い洞察と集中力で描いた、音楽による証言とも言うべき記録です。
今を生きる私たちに、言葉では語り尽くせない苦悩と希望のかけらを静かに手渡してくれます。
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②チェロ協奏曲第1番、第2番
ショスタコーヴィチは、生涯で2つのチェロ協奏曲を作曲しました。
いずれも親交のあった名チェリスト、
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチのために書かれた作品であり、
チェロという楽器を“個人の声”として扱う重要な役割を担わせています。
言論の自由が制限されたソ連体制下で、ショスタコーヴィチはチェロの音に、
自らの良心や葛藤、そして内なる叫びを託したのです。
このCDも1枚目に紹介したピアノ協奏曲同様、ショスタコーヴィチ・プロジェクトの
一環で、世界的チェリストのヨーヨー・マを迎えて録音されました。
1959年に作曲された《チェロ協奏曲第1番》は、挑戦的なリズムと皮肉めいた旋律が特徴で、
体制下での不安と抵抗の精神が感じられます。極めて難易度の高い作品としても知られています。
一方、1966年に書かれた《第2番》はより内省的で、不安定な構成と空虚な響きが印象的です。
ここではチェロは叫ぶのではなく、むしろ沈黙を音で綴る存在となります。
ショスタコーヴィチにとってチェロは、自身の声なき声を語るための最も信頼できる手段でした。
そしてヨーヨー・マは、「ショスタコーヴィチの芸術的真実とは、
声なき者たちの声を代弁することだったのだと思います」と語っており、
その思いを今に伝える存在となっています。
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今月は20世紀のロシアを生き抜いた作曲家、
ドミトリー・ショスタコーヴィチの作品のみで3枚選出いたしました。
今年没後50年を迎えたショスタコーヴィチは20世紀最大の作曲家の1人で、
交響曲の大家としても評価されています。
ショスタコーヴィチは当初、ソ連のプロパガンダ作曲家というイメージで語られており、
音楽には暗く重い雰囲気のものが多いのですが、
その一方でポピュラー音楽も愛し、ジャズ風の軽妙な作品も少なからず残しています。
今回はあえて交響曲を選ばず、彼の違う側面もご紹介できたらと思います。
①ピアノ協奏曲第1番、第2番ほか
中国人ピアニスト、ユジャ・ワンとボストン交響楽団によるCD。
ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲は、鋭さと繊細さが共存する演奏で、
作品の持つアイロニーと抒情を鮮やかに浮かび上がらせます。
ユジャの自由自在なタッチは、ユーモアと緊張が交錯するこの音楽にぴたりと寄り添い、
第1番のトランペットとの掛け合いや、第2番の静寂な第2楽章などに深みを与えています。
この録音は、ネルソンスとボストン響が10年にわたり取り組んできた
「ショスタコーヴィチ・プロジェクト」の一環として制作されました。
このプロジェクトは、交響曲や協奏曲を通じてショスタコーヴィチの多面性に迫る長期計画であり、
アメリカ的な視点から再解釈された演奏は世界的にも高く評価されています。
自由と抑圧、軽妙さと痛みが共存するショスタコーヴィチの音楽を、
ユジャとボストン響は現代に響く“リアルな感情”として表現。
聴き応えのある、知的かつ情熱的な1枚です。
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③ベルリオーズ作曲 幻想交響曲
ベルリオーズ作曲《幻想交響曲》(1830年)は、
クラシック音楽史において「交響曲」というジャンルを根本から変革した画期的な作品です。
ベートーヴェンの影響を受けつつ、ベルリオーズはこの作品で、
作曲者自身の恋愛体験と幻想を土台に、芸術家の愛と絶望、
そして妄想と死をドラマティックに描き、
それまでの形式的・抽象的な交響曲に、
“主人公の狂気や幻想を描く物語性”という概念を持ち込みました。
これは後に「標題音楽(プログラム音楽)」と呼ばれる流れを
大きく押し広げることになります。
リストやリヒャルト・シュトラウスなどが交響詩を生み出す土壌を作り、
マーラーの交響曲にもつながっていく、まさにロマン派音楽の道を切り開いた作品です。
さらに、《幻想交響曲》のもう一つの革新は、
オーケストレーション(管弦楽法)の大胆さと斬新さにあります。
鐘の使用や不協和音的な処理、大規模な編成など、これまでにない音響の世界を提示し、
ワーグナーやドビュッシー、さらには20世紀の作曲家にも大きな影響を与えました。
結果として、《幻想交響曲》は「作曲家自身の人生を作品化する」という思想を
音楽の中心に押し上げ、数多くの作曲家たちがこの作品にインスパイアされました。
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②ベートーヴェン作曲 チェロ・ソナタ全集
チェロのピエール・フルニエとピアノのヴィルヘルム・ケンプ。
この2人の巨匠によるベートーヴェン《チェロ・ソナタ全集》は、
チェロとピアノという2つの楽器が、単なる伴奏と旋律の関係を超え、
対等な対話を繰り広げる音楽の理想形として、長く語り継がれている名盤です。
以前にもベートーヴェンのチェロ・ソナタを取り上げたことがありますが、
今回のCDはベートーヴェンが生涯で残した5つのチェロ・ソナタが全て入っています。
初期・中期・後期にまたがって作曲されたこの作品群には、
ベートーヴェンの作風の変遷がくっきりと表れています。
第1・2番では古典的な均整の中に実験精神が芽吹き、
第3番ではロマン派への扉が開かれ、第4・5番では内省と精神性が色濃くなります。
この録音は、技巧を誇示するのではなく、
音楽そのものの深さと純粋な対話の精神を伝える演奏です。
ベートーヴェンがこの2つの楽器に託した「対等な芸術的パートナーシップ」の理想が、
ここに結集していると言えるでしょう。
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①ヘンデル作曲 ハープシコード組曲第1〜第4番
バッハの大家として知られるグレン・グールドが、
1970年代に録音したヘンデル作曲のハープシコード組曲第1〜第4番は、
彼の芸術性の新たな一面を示す貴重なアルバムです。
この作品でグールドは、ピアノではなくあえてハープシコードを使用。
そもそもハープシコードとは、バロック時代に広く用いられた鍵盤楽器で、
内部の爪で弦をはじく構造を持ちます。
音色は独特の鋭さと軽やかさを持つ一方で、
ピアノのような強弱表現や持続音には限界があり、
音楽的表現がやや制約される面もあります。
彼特有の明快なタッチと構築的なアプローチを活かすために使用したのではないでしょうか。
グールドはヘンデルを「過小評価されている」と語っていたとも言われ、
バッハとは異なる軽やかさや即興性に魅了されていたことが伝わります。
このアルバムは、バッハと並んでヘンデルにも独自の光を当てたグールドの探求の成果であり、
バロック音楽に対する彼の知的探究心と独創的な解釈を体現したものとなっています。
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③ベートーヴェン作曲 三重協奏曲、ブラームス作曲 二重協奏曲
ベートーヴェンとブラームス、それぞれの個性が際立つ「三重協奏曲」と「二重協奏曲」は、
独奏楽器同士の対話に焦点を当てた特異な作品です。
どちらも異なる個性を持ちながら、室内楽的な親密さと協奏曲の壮大さを融合させた
名作として知られています。
ベートーヴェンが1803年に作曲した「三重協奏曲」(ハ長調 作品56)は、
ピアノ・ヴァイオリン・チェロの三重奏にオーケストラが加わる珍しい編成の作品。
当時、協奏曲は基本的に1人のソリストを前面に出す形式が主流だったため、
3人の独奏者が絡み合うこの作品は非常に珍しいものです。
この協奏曲の大きな特徴は、チェロが主導的な役割を果たすこと。
通常、ピアノやヴァイオリンが目立つことが多い協奏曲において、
ベートーヴェンはチェロに豊かな旋律を与え、他の2つの楽器と対話させる構造を取っています。
技巧的な競演というよりも、ソリスト同士の対話とオーケストラとの調和を重視した作品と言えるでしょう。
一方、ブラームスが1887年に作曲した「二重協奏曲」(イ短調 作品102)は、
ヴァイオリンとチェロのための協奏曲で、当時の楽壇でも珍しい編成でした。
この作品は、ブラームスが長年の友人であったヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒムとの
和解のために作曲したことでも知られています。
ヴァイオリンとチェロは互いに旋律を受け渡しながら、
まるで会話をしているかのような絡み合いを見せます。
オーケストラも単なる伴奏にとどまらず、独奏楽器と一体となって音楽を構築しており、
楽章全体を通して、緊張感のある対話が繰り広げられます。
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②ペペ・ロメロ アルハンブラの思い出 ギター名曲集
スペインの名ギタリスト、ロメロは、スペインの伝統を受け継ぐロメロ一家の一員として、
長年にわたりギター音楽の発展に貢献してきました。
その演奏は、技巧の確かさと情感豊かな表現で知られ、今回のアルバムでもその魅力が存分に発揮されています。
アルバムの中心に据えられた「アルハンブラの思い出」は、スペインの作曲家フランシスコ・タレガによる名曲。
きらめくトレモロ奏法が特徴で、アルハンブラ宮殿の幻想的な美しさを音で描き出しています。
他にはスペインやラテンアメリカの名曲が収録されており、イサーク・アルベニスの「アストゥリアス」や
エンリケ・グラナドスの「アンダルーサ」など、ギター音楽の代表的な作品が並びます。
この1枚でクラシック・ギターの世界はほとんど把握できそうな名曲が集められており、
ギター愛好者だけでなく、初めてクラシックギターの世界に触れる人にもおすすめの1枚です。
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①アリス=紗良・オット
ジョン・フィールド作曲 ノクターン全集
アリス=紗良・オットは、ドイツと日本のルーツを持つ国際的なピアニスト。
6〜7月に日本ツアーを控えた彼女が先月ジョン・フィールドの18のノクターンを全曲録音したアルバムをリリースしました。
1782年にアイルランドに生まれ、ベートーヴェンと同時代を生きたフィールドは
ショパンの作品で広く知られる作曲形式「ノクターン」(夜想曲)を19世紀に初めて作曲したといわれています。
当時、演奏家、教師、作曲家として大きな成功を収めていましたが、1837年に亡くなった後、
フィールドの名声は次第に薄れていき、彼が残した数多くの音楽的遺産は
ピアノのスタンダード・レパートリーから消え去ってしまいました。
しかしながらも、フィールドが創造した叙情的な「ノクターン」は、次の世代のロマン派の作曲家たちに大きな影響を与え、
そのうちの1人であるショパンは、フィールドのスタイルに共鳴し、自身のノクターンに取り入れ、
このジャンルをさらなる高みへと引き上げました。
最近フィールドの音楽に出会い、今回の録音に挑んだというオットは
「リスナーが『ノクターン』の起源を知るきっかけになってくれることを願っています」とコメントを寄せています。
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③ストラヴィンスキー バレエ曲集
イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)は、
バレエ音楽を通じて20世紀の音楽を革新した作曲家です。
彼の代表的なバレエ作品には、《火の鳥》(1910)、《ペトルーシュカ》(1911)、
《春の祭典》(1913)の「三大バレエ」があり、
それぞれが独自の音楽的・舞踊的アプローチを持っています。
《火の鳥》は、ロシア民話をもとにした色彩豊かな音楽で、
豪華なオーケストレーションと幻想的な響きが特徴。
ストラヴィンスキーの出世作となり、ロシア・バレエ団の主宰ディアギレフの注目を集めました。
《ペトルーシュカ》では、ピアノをオーケストラに組み込み、
民俗的な旋律とリズムの多彩な変化を取り入れました。
からくり人形が命を得て踊るというユニークな物語と相まって、前衛的な響きが際立っています。
《春の祭典》は、原始的なリズムと不協和音が支配する衝撃的な作品。
初演時には観客が騒然となり、「スキャンダル」として語り継がれました。
しかし、その革新的なリズムと構成は後の音楽に多大な影響を与え、
今や20世紀の最重要作品の一つとされています。
彼のバレエ音楽は、単なる舞踊の伴奏ではなく、
音楽そのものがドラマを生み出す独立した芸術として、
現在も多くの指揮者・ダンサーに愛されています。
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